メシアンの超恐いピアノ曲を聴いてみろ!

putchees2006-04-30


最強の「もてないピアノ曲」!


きょうはクラシックの
「もてないピアノ曲をご紹介します。


少し前に紹介したショスタコーヴィチ
24の前奏曲とフーガ」と双璧をなす、
20世紀最強の「もてないピアノ」の大作です。


メシアンという作曲家による、その名も
「幼な児イエスにそそぐ20のまなざし」です。


なんて大仰な名前でしょう。
もちろん内容もすごい。


女子供どころか、
大の男だってはだしで逃げ出す、
それはもう恐ろしい音楽です。


聴いてやろうという物好きな方は、
ぜひ下までお読みください。

今回はCD紹介です


【今回のCD】
メシアン 幼児イエズスに注ぐ20のまなざし オグドン
Messiaen Vingt regards sur l'Enfant-Jesus John Ogdon
(UCCD-3133,4)
ASIN:B000068W13


【曲目】
オリヴィエ・メシアンOlivier Messiaen(1908-1992)
「幼な児イエスにそそぐ20のまなざし」(1944)
Vingt regards sur l'Enfant-Jesus pour piano


【ミュージシャン】
ジョン・オグドンJohn Ogdon(ピアノpiano)
(録音:1969年)

フランス20世紀の巨匠


この作品は、第二次世界大戦末期に作曲されました。
全20曲で、演奏時間は約130分です。
ピアノの独奏曲なのに、
CD2枚組で、なんとこの曲しか入っていないのです。


ピアノのリサイタルなら、2時間のプログラムが
まるまる埋まってしまう内容です。


ポピュラー音楽などの常識からは完全に外れています。
もちろん、クラシック音楽の分野でも異例な規模です。


作曲したのは、フランスのオリヴィエ・メシアンです。
亡くなったのが1992年ですから、
ひと昔前まで活躍していた人です。


オリヴィエ・メシアン


メシアンのことは、昨年
トゥランガリ交響曲Turangalila Symphonie」のコンサートを
レポートしたときに書きました。
id:putchees:20050628 id:putchees:20050703


20世紀を代表する作曲家のひとりです。


トゥーランガリラ交響曲」は、
スカッと爽快な、わかりやすい曲でしたが、
今回ご紹介する「幼児イエスにそそぐ20のまなざし」は、
ちっともわかりやすくない音楽です。


どうやら、キリスト教の伝説をモチーフにした、
小難しいリクツのありそうな音楽です。

オバケでも出てきそうな音楽


ま、能書きはこの際どうでもいいので、
ともかく聴いてみましょう。


……


…………


なんだか聴いたこともないような音です。


前衛ではありませんが、
やさしいメロディやハーモニーはありません。


少なくとも、ショパンやリストのようでないことは
間違いありません。


3曲目くらいで、退屈して逃げ出す人がいるかもしれません。


まあ、とりあえずガマンして聴いてください。
しばらく静かな曲が続いたあとの6曲目で、
ついにそのときがきます。


「ガロギロガギガギキキキキギャギャギャギャ」


…コ…コワイ!!


なんだこれは!


化け物でも出てきそうなムードです。


さらに10曲目。


「喜びの精霊のまなざし」なんて
タイトルがついていますが……


「ガンガロギャロギャロギロギロガラゴロ」


わあっ!!


あまりのおそろしさに、オーディオの
スイッチを切ってしまいそうです。


こんな異様な音楽は、ちょっと聴いたことがありません。


キリスト教がモチーフなので、
エゼキエル書」とか「ヨハネの黙示録」に出てくる、
得体の知れない怪物の姿が頭に浮かびます。


夜中にうなされそうな音楽です。


あとはもう、ずっとこんな感じです。
静かだったり、激しかったりしますが、
いずれも、この世のものとも思えないような
奇ッ怪千万の音響絵巻が繰り広げられます。

iTunes」のランダム再生がオススメ


ぼくはこのCDを10年ほど前に手に入れたのですが、
一回聴いて「なんじゃこりゃ」と思って、
そのままほったらかしでした。


おそるおそる聴き直すようになったのは、
つい最近です。


繰り返し聴くうちに、よさがわかってきました。


メシアンの奇妙なメロディ感覚や、独自のリズム感、
それにたいへん豊かなハーモニーが、
少しずつ聞き取れるようになってきました。


しかし、全曲を聴き通すのは、いかにもたいへんです。


こういう曲は、iTunesに放り込んで、
ランダム再生で聴くのがちょうどいいです。
そうすれば、100回に1回くらいの割合で、
「20のまなざし」のいずれかの曲がかかるわけです。


え、邪道?
そんな、マニアが口にしそうな批判は気にすることありません。
好きなように聴けばいいのです。


たとえば、大塚愛のかわいらしいヴォーカルの後で、
だしぬけに「第10曲:ノエルNoel」がかかるわけです。


ピアノが強打で、


「ギャギャギャンドンチャン、ギャギャギャンドンチャン」


てな具合です。


そらもう、ぎょっとします。


さながら、天から響く天使のラッパのようなものです。


「甘ったれた音楽ばかり聴いて、たるんでおってはいかんぞよ」


という、警告のようにも聞こえます。
自然に背筋が伸びるというものです。


やっと終わって、ああよかったと思っていたら、
また忘れたころに、
「第20曲:愛の教会のまなざし」がかかったりするわけです。


「ピロリロリロピロリロ、ドガジャガジャガジャガジャン」


またまたドビックリです。


…といった具合で、
この曲のうちのどれかひとつがかかるたびに、
「世の中には、人智を越えたコワいものがある」
ということを思い知るわけです。

Mっぽい人にオススメ!?


この音楽は明らかに非日常の音響ですから、
たるんだ日常生活に打ち込むくさびみたいなものです。


気分をリセットするにはいちばんです。
間違いなく、ガツンときます。


そのうち、
「こういう恐い音も、意外に気持ちいいかも
と思えてくるから不思議です。


iTunes」のランダム再生は、
こういうときに思わぬ効果をあげます。


全曲聴くのはしんどくても、1曲ずつ
バラで聴いてみると、意外に早く
その魅力(怖さ?)に気づかされるでしょう。


たるんだ毎日への喝に、ぜひこの作品を!


特に、強烈な音でガシガシ叩かれて
いじめられたいというM気質の人には、
たまらないでしょう。

バイタリティあふれる音楽


どうしてこの曲が魅力的かというと、
根性があるからです。


ちょっと聴くと、繊細な理詰めの音楽という印象ですが、
いやいやとんでもない。


この曲の持つバイタリティには、
問答無用でひれ伏してしまいます。


フニャフニャの頭でっかちじゃなくて、
ビシッと一本、筋が通っています。


なよなよした音楽だったら、ぼくは紹介しません。


まるで体育会の応援団みたいな、
わっせわっせの筋肉派だから
好きなのです。


これを演奏するほうだってたいへんです。
なよなよしたピアニストじゃ、1曲でダウンでしょう。
筋トレして、走り込んで、持続力をつけないと、
とても全曲弾けません。


「ぼくって何?」とかほざいている軟弱者には、
「これ聴いてシャキッとせい!」
とビンタして、CDを渡したくなります。


そんなすがすがしい(?)音楽です。


ああもう、気持ちいいなあ!


みなさんもぜひ一度、
「幼児イエスにそそぐ20のまなざし」を聴いてみてください。


ただ、100人中90人が
途中で逃げ出すのは間違いありません。


さらに、こんな音楽を聴いたって、
100%もてないにきまっていますけどね!


(この稿完結)