暑い夏は冷えたビールとバリトンサックスで決まりなのだ!!

putchees2006-05-12


ルーズでかっこいい低音ジャズ


今回は暑っ苦しいジャズをご紹介します。
低音がブリブリ、グルーヴがズンズンです。


マイナーなバリトンサックス奏者の
リーダーアルバムです。


まったくもてない音楽ですが、
暑くなるこれからの季節にぴったりです。


いつものようなシリアスな音楽ではないので、
ビール片手に気軽に聴いてください。

今回はCD紹介です


【今回のCD】
「ナリ・コラNali Kola」
ハミエット・ブルーイットHamiet Bluiett
Soul Note1989
ASIN:B00000401R


【曲目】
1.Bouka
2.Snake Back Solos
3.Enum
4.Broken Sticks
5.Nali Kola (A.K.A. Sobre une Nube)
6.Ganza

でっかいサックス!


バリトンサックスってご存じでしょうか。
アルトサックスの1オクターブ下の音が出る楽器です。


あまりに図体がでかいので、管が一回ぐるっと回ってから
吹口につながるようになってます。


背の低い人が吹くと、床に着いてしまいそうです。


そんな楽器から出る音は、びっくりするような、
迫力の低音です。


ちょっとグロテスクな音です。


この楽器、ふだんはアンサンブルの中で
地味なハーモニー担当なのですが、
ソロ楽器としてジャズで使う人が、たまにいます。


個人的な好みですが、
こういう楽器は、音色からして、フリージャズ向きです。


腹に直接響くような低音で、
ブリブリーッと野蛮な即興演奏をされると、
もうゾクゾクきちゃいます。


きょうは、そんなフリー系のバリトンサックス奏者のひとり、
ハミエット・ブルーイットをご紹介します。


フリー系といっても、
ちゃんとリズムもメロディもありますから心配なく。


フリージャズというより、むしろブルースとか、
アフロビートとか、そんな感じに近いかもしれません。


めっちゃカッコイイ音楽ですからご安心を。

ブルースなフリージャズ


このCDは、アフリカ風パーカッション多数と
バリトンサックスだけの演奏が主体になってます。


ベースは不在で、ピアノとギターが
ゲスト的に参加しているだけです。


つまりはメロディとリズムだけの音楽
ちょっと変わった編成ですが、これがなかなか。


バリトンブカブカ
パーカッションがドカドカとにぎやかで、
原始的な音楽のパワーを感じます。
もう、バイタリティ満点。


パーカッションとサックスだけでこんなにカッコイイなら、
ピアノもベースもいらないやって、多くの人が思うでしょう*1


フリージャズっぽい演奏ですが、
ハミエット・ブルーイットのソロには、
アメリカ黒人のブルースが溢れています


ヨーロッパのサックス奏者のように、
根無し草の観念的なフリー演奏にならないところが好印象です。


マイナーですが、こんなすてきな
バリトンサックス奏者がいるもんですね。

フリージャズ+ラップ?


いちばんの聴きものは2曲目です。
パーカッション群とハミエットの
バリトンに合わせて、ラップふうの詩が朗詠されます。


これが、たいへんかっこいい。
英語なので、詩の意味はわかりませんが、ノリノリです。


ブカブカというバリトンの暑苦しいアドリブに合わせて、
黒っぽいアクセントの英語がうねうねとうねります。
これぞアフロ・アメリカン音楽という感じがしてきます。


こりゃ気持ちいいわ!


この詩は、マイルス・デイヴィス自叙伝の共著者として
知られるクインシー・トループQuincy Troupeのものです。


歌っているのは本人でしょう。


彼はもともと、詩人だったようです。
これを聴く限りでは、なかなかの歌い手ぶりです。
やるじゃん!

ハイテンションのアドリブ


CD最後の曲もイイです。
ハミエットがフルートに持ち替えて、
パーカッションアンサンブルと激しいかけあいを行います。


ノイジーなフルートソロのバックで、
パーカッションの群れが野蛮なリズムであおり立てます。


やれいけ、それいけ! と声援したくなるような、
テンションの高さです。


おおかっこいい!


1曲目からラストまで聴けばおなかいっぱい。
暑い夏が、さらに暑くなるようなジャズです。

ジャズはテキトーな音楽


このCDに収められた音楽は、たいへんルーズです。
テンションが高いとはいえ、ソロは長いし、
似たような繰り返しが多いし、
かなり、だらだらしています。


要するに、いいかげんです。


しかしこのルーズさが、たいへん心地いいのです。
ビールでも飲みながら
だらだら聴くのにちょうどいいのです。


クラシック音楽だと、
そういうわけにはいきません。


正座して、身じろぎもしないで聴く音楽という感じがします。


ところが、ジャズはきめごとなしの即興ですから、
もう、ルーズそのもの。
みんなやりたいように演奏して、あとは知らんぷりです。


なんてテキトーなのでしょう。


しかし、それでいいのです。演奏中に
コロナCoronaでも飲みながら、
いえーい、とか気勢を上げていればいいのです。


このいいかげんさが、ジャズの面白さです。


いいかげんに聴いていて、
ときどき訪れる、モーレツに気持ちいい瞬間に
身をくねらせればいいのです。


もちろん、ジャズの中にも、しゃちほこばった
シリアスなものもありますが、
そういうのばかり聴いてちゃ肩が凝ります。


たまにはこういうルーズなジャズを聴いて、
だらーっとしてみるのもいいものです。


まあ、フリージャズですから、
決して耳に優しいわけではありませんけど、
ビールのつまみにはいいはずです。
いわば珍味ですね。

ミンガスバンド出身


最後に、データっぽいことを書いておきます。


ハミエット・ブルーイットは、
1940年、合衆国イリノイ州生まれ。


1970年代にチャールス・ミンガスCharles Mingus
バンドに参加して注目を集めました。


ぼくがこの時期の録音で聴いたことがあるのは、
ミンガス晩年の大傑作「At Carnegie Hall」(1974)です。


ジョージ・アダムスGeorge Adams
ローランド・カークRoland Kirkなどに混じって、
狂乱のフロント陣の一翼を担っていたのが、この
ハミエット・ブルーイットでした。


あの名ライブに参加していたサックス奏者なら、
これだけのアルバムを残していて当然です。


ほかのリーダーアルバムも聴いてみたいものです。


いやあ、それにしても男らしい音楽です。
そして暑苦しい音楽です。


これからの季節に、この「ナリ・コラ」をオススメします。
ビールをお忘れなく。


モーレツにかっこいいけど、こんなジャズ聴いてたら、
女の子にはぜったいにもてませんね。
うん、こりゃもてないよ。


(この稿完結)

*1:バリトンサックスとベースの音域は近いので、お互い邪魔になることがあります。このバンドがベースを欠いているのは正解です。